高齢化社会の日本では、認知症を患った方々の財産管理を巡るトラブルが大きな社会問題になってきています。
実際に、認知症になってしまった親族の生活費・医療費を賄うために、親族所有の不動産を売却しなければならないとき、どのように対応すればいいのでしょうか?
今回は、近年になって注目されるようになってきた「成年後見制度」を活用した不動産売却について、ポイントや注意点を解説したいと思います。
「認知症」と契約行為について
「認知症」とは「生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態」と、厚生労働省ホームページに記載されています。
認知症が進行してしまうと、法律行為を行うための「意思能力」が欠如しているとみなされ、様々な契約行為を単独で行うことが難しくなります。判断能力については個別の事情によっても異なりますが、小学校低学年以下の小さな子どもくらいの判断能力であれば、「意思能力」がないと見なされるようです。
当然ながら、例え実子であったとしても、親の財産である不動産を勝手に処分することはできません。認知症が進んでしまった親族の不動産を売却する際には「成年後見制度」を活用することになります。
「成年後見制度」について
「成年後見制度」とは
成年後見制度とは、「認知症,知的障害,精神障害などによって,判断する能力が欠けているのが通常の状態の方について,申立てによって,家庭裁判所が「後見開始の審判」をして,本人を援助する人として成年後見人を選任する制度です。(裁判所ホームページ)」となっています。
「成年後見制度」では、本人の判断能力の程度により、3種類の援助者を規定しています。以下で詳しく見てみましょう。
・成年後見人
成年後見人は、「判断能力が欠けているのが通常の状態の方」の場合に選任される援助者で、上記で説明した「全面的な権限を持つ後見人」です。一般的には、本人の判断能力がほとんどあるいは完全に失われているときに選任され、日常生活を除く、あらゆる法律行為について本人の代理権、取消権や追認権を持ちます。
・保佐人
保佐人は、「判断能力が著しく不十分な方」の場合に選任される援助者で、認知症であっても、一定の判断能力がある場合には保佐人が選任されます。民法の定める一定の重要な法律行為についての同意権、取消権、追認権が認められており、不動産の売却も、保佐人の同意が必要となります。
・補助人
補助人は、「判断能力が不十分な方」の場合に選任される援助者です。補助人は、民法が定める一定の重要な法律行為の中から、必要に応じて個別に同意権や取消権などを認めてもらう必要があります。不動産売却についての同意権、取消権についても、本人の同意を得て、補助人申し立ての際に付与するよう求めることになります。
「成年後見開始審判申立て」について
成年後見制度により、適切な援助者を選任してもらう際は、管轄の家庭裁判所に「成年後見開始審判申立て」を行うことになります。家庭裁判所において一定の判断能力があると見なされると、成年後見人ではなく、保佐人や補助人が選任される可能性があることに留意しましょう。
管轄の家庭裁判所
成年後見開始審判申立の管轄の家庭裁判所は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。必ずしも住民票上の住所である必要はなく、「実際に本人が居住している場所」を管轄する家庭裁判所となります。
申立権者
「成年後見開始審判申立て」を行うことができるのは、以下の人です。
- 本人
- 配偶者
- 4親等内の親族
- 市町村長
- 検察官
- 成年後見人等
- 成年後見監督人等
※4親等内の親族は、親や子、孫や祖父母、叔父、叔母、甥、姪、いとこ、配偶者の父母や祖父母、配偶者の兄弟姉妹などが該当します。
本人に親族が全くいない状況で老人施設等に入所している場合は、市町村長が申し立てをするケースも増えてきています。
「成年後見人」による不動産売却に関する注意点
「成年後見人」による不動産売却を行う際に、注意しなければならない点があります。それは、「居住用不動産の売却には、別途家庭裁判所の許可が必要」という点です。
投資用マンションなどの、非居住用不動産(収益物件)の場合には、家庭裁判所の許可は不要で、成年後見人の判断で売買契約を締結して売却を完了することができます。
しかし、居住用不動産の売却については、成年後見人の独断では行うことができません。成年後見人は全面的な代理権を持っていますが、家庭裁判所の許可を得ずに居住用不動産を売った場合、売買契約は無効となります。
家庭裁判所で居住用不動産の売却許可を得るには、「本人の生活費のため」「介護施設の入所費用、月額費用のため」「介護施設に入居し、自宅に戻る予定がないため」といった理由が必要となります。
成年後見制度を活用した不動産売却を検討されている場合は、「成年後見開始審判申立て」などに時間がかかるため、できるだけ早い段階から準備を始める必要があります。詳細については、市町村窓口および成年後見センター等にご相談ください。
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