「不動産価格」という言葉を聞いたとき、多くの人は、不動産広告に掲載されているマンションや一戸建ての値段を思い浮かべると思います。しかし、「不動産価格」と呼ばれるものはそれだけではありません。
不動産には「一物五価」といわれる5つの評価額が存在し、それぞれ独自の評価方法に基づき、異なる目的のために活用されているのです。
今回は、売却価格を決める際の参考指標となる不動産評価額について、解説したいと思います。
「一物五価」とは
「一物五価(いちぶつごか)」とは、1つの不動産に対して5つの異なる価格が存在することを指します。具体的には「公示価格」「基準地価」「固定資産税評価額」「相続税評価額(路線価)」「実勢価格」の5つの価格があります。
1.公示価格
「公示価格」とは、不動産の価値を示すために国が定める土地の価格のことです。この価格は、土地取引の際の参考となるだけでなく、税金の算出や公共事業用地の取得価格算定などにも使用されるため、不動産評価額の中では最も重要だと考えられています。公示価格は毎年1月1日における全国の標準地(2020年は計2万6000地点、うち7地点は調査休止)の1㎡当りの価格で、毎年3月下旬に国土交通省から公表されます。※建物がある場合は建物がない更地として評価されます。
公示価格の決定方法は、2名以上の不動産鑑定士が鑑定評価を行い、その結果を土地鑑定委員会が審査して決定します。公示価格は、実際の市場価格、すなわち実勢価格とは異なる場合がありますが、実勢価格の目安として利用されることもあります。
2.基準地価
「基準地価」は、毎年7月1日における全国の基準値2万2000地点の価格で、9月下旬に公表されます。「公示価格」と似ている指標ですが、公示価格は国が調査した「都市の土地価格の目安」であり、基準地価は都道府県が調査した「都市以外も含む土地の適正価格」を示すもので、都市計画区域外や林地も対象(一部標準地と重なる地点もある)になっています。「公示価格」と「基準地価」の公表時期が半年離れていることから、土地価格の動向を知ることが出来ます。
基準地価は、一般の土地取引のほか、地方公共団体や民間企業の土地取引の目安としても活用されており、公示地価や路線価と並んで、不動産価格を判断する際の参考になる価格の基準とされています。
3.固定資産評価額
「固定資産評価額」は、固定資産税、都市計画税、不動産取得税、登録免許税の算定基準となる価格です。調査主体は各市町村(東京23区内は東京都)で、基準日は毎年1月1日ですが、評価額の見直しは3年毎となっています。
「固定資産税評価額」が高くなると、固定資産税の負担が大きくなってしまうこともあり、公示価格の70%程度が目安になっています。
4.相続税路線価
「相続税路線価」は、土地の相続税や贈与税の算定基準となる価格です。調査主体は国税庁で、毎年1月1日が基準日になっており、7月初旬に公表されます。
相続税路線価(道路に面する標準的な宅地の1㎡当りの価格)を土地の形状に応じた補正率で補正した後に評価額が決定され、「公示地価」の80%が目安となっています。
「道路に接する土地1平方メートルあたりの価格」を示したものが路線価になりますので、立地が良く利便性の高い土地ほど金額が高くなります。
5.実勢価格
不動産の「実勢価格」とは、不動産が市場で実際に取引された価格のことを指します。これは、売主と買主の間で合意された価格であり、市場の需要と供給のバランスによって決定されます。実勢価格は、不動産の価値を反映する重要な指標であり、不動産市場の動向を理解する上で欠かせない情報源です。
実勢価格の調べ方にはいくつかの方法があります。一般的には、公示地価や路線価、固定資産税評価額などの公的な価格指標を参考にして、実勢価格を推測します。公示地価は、国土交通省が毎年公表する土地の正常な取引の指標価格であり、実勢価格は通常、公示地価の1.1~1.2倍程度で取引されることが多いと言われています。
また、不動産会社による査定を受けることで、より正確な実勢価格の見積もりを得ることができます。不動産の査定では、土地の立地や形状、建物の状態、市況や周辺環境などを考慮して価格が算出されますので、これにより、実際の市場価格に近い実勢価格を知ることが可能になります。
実勢価格は、不動産売買の際の価格交渉や、投資判断の基準としても利用されます。市場の変動に応じて実勢価格は変わるため、不動産を売買する際には、最新の市場情報を把握しておくことが重要です。
不動産評価額の調べ方
上記の不動産評価額については、各省庁のウェブサイトで確認することができます。
公示価格については、国土交通省の「土地総合情報システム」や資産評価システム研究センターの「全国地価マップ」などのウェブサイトが利用できます。「土地総合情報システム」では、実際に行われた土地取引情報も検索できるので、「実勢価格」の参考値としても活用することができます。
これらのサイトでは、公示価格だけでなく、基準地価や固定資産税路線価、相続税路線価なども調べることができますので、非常に便利です。
基準地価については、国土交通省の「標準値・基準地検索システム」を利用することで、該当する地域の基準地価を検索することができます。また、各都道府県のHPでも調べることができます。
固定資産税評価額については、毎年4月頃に送付されてくる固定資産税の納税通知書に添付されている課税明細書で確認できます。その場合、課税標準額は固定資産税の優遇措置により評価額と一致しない場合がありますので、必ず価格欄を確認するようにしましょう。納税通知書を紛失した、納税通知書が届く前に固定資産税評価額を知りたいといった場合は、最寄りの役所で「固定資産税評価証明書」を発行してもらうことも可能です。
不動産の売却価格を決める際には、中古不動産市場の相場を理解した上で行うことが求められます。不動産会社に依頼すれば査定額を提示してくれますが、売主様自身でも不動産評価額を調べることができれば、査定額に対して的確な判断を行うことができるようになりますので、ぜひ参考にしてみてください。
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