高齢化社会が進むなか、認知症の方々の財産管理が問題になってきています。
以前の記事(高齢化社会における不動産売却の対応策!成年後見制度を活用した不動産売却について)で、認知症の方の不動産売却に役立つ「成年後見制度」について解説いたしましたので、今回は「成年後見人制度の利用手続きと成年後見人の選任」について見ていきたいと思います。
成年後見制度について
高齢者や障がい者の権利保護に関わる「成年後見制度」は、不動産取引や財産管理に関する重要な法制度の一つです。
認知症や知的障がい、精神障がいなど判断能力が不十分で契約や財産管理を適切に行うことが困難な場合に、家庭裁判所が後見人を選任し、法的にサポートできるようにするものです。
成年後見制度は、大きく以下の3種類に分かれます。
- 後見(判断能力がほとんどない場合)
- 保佐(判断能力が著しく不十分な場合)
- 補助(判断能力が不十分な場合)
それぞれの制度によって、後見人(または保佐人・補助人)の権限が異なり、本人の判断能力の程度に応じて適用されます。
成年後見制度の目的は、判断能力が不十分な方が不利益を被らないようにすることであり、具体的には、以下のような場面で必要とされます。
- 契約の無効化を防ぐ:詐欺や悪質な契約による被害を防ぐ。
- 財産の適切な管理:不動産や預貯金の管理を代行し、適切に活用する。
- 生活の安定:福祉サービスの契約や医療機関との連携を円滑に行う。
- 高齢化社会の対応策:成年後見制度を活用した不動産売却について
成年後見制度の利用手続き
成年後見制度を利用するには、まず家庭裁判所に申し立てを行います。申し立ては、本人の配偶者や子ども、親族、市町村長などが行うことができます。その後、申し立てには本人の判断能力を証明するための医師の診断書が必要となります。
家庭裁判所は、提出された診断書やその他の資料をもとに審理を行い、適切な後見人を選定します。後見人には、親族が選ばれる場合もあれば、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれる場合もあります。裁判所の審判により後見人が決定すると、後見人は正式に就任し、本人の財産管理や法律行為の代理を行うことになります。
成年後見等開始の申立てから実際に成年後見人等が決まるまでの期間は、状況によって異なりますが、必要書類がすべて整い、家庭裁判所による調査等に困難がないケースでは、申立てから1~2か月程度で後見等開始の審判が出るようです。
審判書謄本を成年後見人等が受領してから2週間経過後に、審判が確定することになりますので、数ヵ月の期間を想定する必要はあるでしょう。
法定後見制度に関する相談先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所となりますが、その他にも、市区町村の高齢者福祉課等、社会福祉協議会、地域包括支援センターなどでも相談に応じてくれますので、できるだけ早めの相談をおすすめいたします。

成年後見人の選任について
成年後見人等の選任については、家庭裁判所の裁量によって行われます。そのため本人の親族を成年後見人等の候補者として申立てを行ったとしても、必ず選任されるとは限りません。
親族間に争いがある場合や、本人と利益相反する関係にある場合など、事案によっては弁護士や司法書士など(いわゆる専門職後見人)の第三者が選任されることもあります。
特に下記のような事例では、第三者が選任されることが多くなっています。
- 親族間に意見の対立がある場合
- 流動資産の額や種類が多い場合
- 後見人等候補者が自己もしくは自己の親族のために本人の財産を利用(担保提供を含む。)し,または利用する予定がある場合
- 後見人等候補者が,本人の財産の運用(投資)を目的として申し立てている場合
2000万円を超える多額な預貯金や株式、手形を複数持っている場合は、「財産の管理が難しい」「財産の使い込みを防ぐため」といった理由で第三者が法定後見人に選ばれやすくなるようです。
また、成年後見人の解任には、「不正な行為」「著しい不行跡」「その他後見の任務に適しない事由」のいずれかが必要となります。解任事由に該当する場合、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で、家庭裁判所は成年後見人を解任することができます。
具体的には、成年後見人等による使い込み、成年後見人等としての権限濫用、家庭裁判所へ報告義務を果たさなかった場合などが挙げられ、また、成年後見人等が高齢・疾病等の理由で職務を遂行できない場合も該当します。
一方、成年後見人との関係悪化などの理由では解任することはできません。解任できるのは解任事由に該当する場合のみということを覚えておきましょう。
高齢化社会の日本では、認知症を患った高齢者の方々の財産管理を巡るトラブルが増え続けており、大きな社会問題になってきています。
認知症になってしまった親族の生活費・医療費を賄うために、親族所有の不動産を売却しなければならないことも少なくないので、「成年後見制度」を正しく理解し、早めに相談を進めていきましょう。
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